なぜ月桃の葉の精油を作らないのか
「月桃の葉の精油は、作らないの?」
そう聞かれることがあります。
月桃は、奄美の暮らしのそばにある植物です。
その植物から香りを取り出しているなら、葉も蒸留すると思われるのかもしれません。
けれど香彩では、月桃の葉の精油を作っていません。
作れないから、ではありません。
作る前に考えた結果、今は作らないと決めています。
月桃の葉の精油を作らない、三つの理由
理由は、三つあります。
一つ目は、葉から取れる精油の量が、とても少ないことです。
植物を蒸留すれば、使った分だけ精油が取れるわけではありません。
同じ重さの植物でも、取り出せる量は種類や部位によって変わります。
月桃の葉は、多くの葉を使っても、得られる精油はわずかです。
二つ目は、香彩の蒸留器の大きさです。
香彩が使っているのは、小さな蒸留器です。
一度に入れられる植物には限りがあります。
葉から取れる量の少なさを考えると、今の設備では十分な量を取り出せません。
設備を大きくすれば、取れる量は増えるかもしれません。
けれど、それだけで答えが出るとは考えていません。
大きな釜を満たすには、さらに多くの葉が必要になります。
作れる設備を持つことと、作る理由があることも、やはり別だからです。
三つ目は、月桃の葉の精油が、ほかの地域ですでに作られていることです。
ただ、すでにあるから作らない、という単純な話ではありません。
同じ素材を扱っても、作り手の判断や届け方は異なります。
それでも新しく作るのなら、奄美で作る意味を、自分の言葉で説明できるか。
蒸留できるかどうかより、わたしが立ち止まったのはそこでした。
今のところ、葉の精油について、その答えを持っていません。
ほんの少しの香りの前にあるもの
蒸留には、植物だけでなく、水と熱が必要です。
釜に植物を入れ、水を用意し、ガスを使って加熱します。
蒸留器の先で受け取る精油が少なくても、その手前の工程はなくなりません。
たくさんの葉と、水と、ガスを使う。
そこまでして、ほんの少しの精油を取り出すことは、植物にとってよいことなのだろうか。
わたしは、そこで立ち止まります🤔
香りが取れることと、取るべきことは、同じではありません。
技術として可能でも、製品にするかどうかは別の判断です。
これは、効率だけの話でもありません。
取れる量が少ないから、価値が低いとも考えていません。
少ないものには、少ないものなりの意味があります。
ただ、その希少さを理由に、使う植物の量を見えなくしたくはありません。
目の前の葉を、香りの原料としてだけ見ていないか。
瓶の中の量だけを見て、その前に使ったものを忘れていないか。
作る側にいるからこそ、確かめておきたいことです。
その問いは、花の溶剤抽出にも返ってくる
ここまで書くと、もう一つの問いが自分に返ってきます。
けれど、これは花の溶剤抽出にも言える部分があります。
香彩では、月桃の花から香りを取り出しています。
花を集め、溶剤を使い、時間と手間をかける方法です。
葉の蒸留に植物や資源を使うと問いながら、花の抽出は別だと言い切ることはできません。
花から得られる香りも、決して多くありません。
だから、葉の蒸留だけを外側から評価するつもりはありません。
「それなら、なぜ花は抽出するのか」
その問いも、わたしの仕事の中に置いています。
葉は作らず、花は抽出する。
二つを並べると、矛盾して見えるかもしれません。
わたし自身も、その違いを簡単な言葉で片づけないようにしています。
月桃の花では、花の香りを生かすために、溶剤抽出を選びました。
それでも、一度選んだ方法が、ずっと正しいとは限りません。
使った植物と、得られた香り。
その間にある水や材料、時間まで見ながら、次の判断を考えます。
矛盾をきれいに消すより、自分の製造にも同じ問いを向け続けたいのです。
問いを持つことは、何も作らないことではありません。
作るたびに、方法と使う量を見直すためのものだと考えています。
月桃の花を収穫し、香りを取り出した記録は、こちらの記事に残しています。
部位ごとの価値を、どこで生かすか
葉の精油を作らないのは、葉に価値がないからではありません。
月桃は、部位ごとに姿も香りも異なります🌿
だからこそ、すべてを同じ方法で香りにする必要はないと考えています。
葉には葉の役割があり、花には花の香りがあります。
何でも精油にするのではなく、その部位の価値が生きる場所を考える。
香彩が選びたいのは、その作り方です。
作ることは、目に見える仕事です。
瓶に入り、製品になれば、選んだ理由も伝わりやすくなります。
けれど、作らなかったものの向こうにも、判断があります。
月桃の葉を見ながら考えたのは、香りをどれだけ取れるかだけではありませんでした。
どこまで使うのか。
何を残すのか。
そして、その部位をどこで生かすのか。
小さな瓶を見るとき、その手前にある植物や水、熱のことまで、少し思い出してもらえたらと思います🏝️
わたしもまた、作る前にこの問いへ戻ります。
<香彩代表・カモガワ>
薬剤師として奄美大島に暮らしながら、島の植物の香りを“えがおのくすり”として届けています。
青い海と風の中で出会った植物たちの香りを通して、奄美の優しさと彩りを全国へ。





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