水蒸気蒸留・圧搾・溶剤抽出は何が違う?香彩が3つの抽出法を使い分ける理由

精油の抽出方法は、植物によって変わります。
水蒸気蒸留は、蒸気とともに移る香りに。
圧搾は、果皮に油胞がある柑橘に。
溶剤抽出は、熱で変わりやすい繊細な香りに。
三つの方法に、単純な優劣はありません。
違うのは、取り出しやすい香りの性質です。
香彩では、作業のしやすさからではなく、「どの香りを取り出したいか」から方法を選びます。
この記事では、水蒸気蒸留、圧搾、溶剤抽出の違いを、薬剤師の視点で整理します🌿
なお、溶剤抽出で得られるアブソリュートは、厳密には精油と別の芳香素材です。
精油とフレグランスオイルの違いは、こちらの記事で整理しています。
抽出方法の違いは、取り出したい成分の違い
植物の香りは、一つの成分だけでできているわけではありません。
多くの芳香成分が重なり、人が感じる香りになります。
そして成分ごとに、熱への強さ、揮発しやすさ、水や油への溶けやすさが異なります。
同じ植物でも、方法を変えれば、取り出される成分の組み合わせは同じになりません。
だから、方法を先に決めるのではなく、残したい香りの輪郭から逆算します。
香彩が主に見るのは、次の三点です。
- 加熱によって、取り出したい香りが変わらないか
- 香りの成分が水へ移りやすいか、油として分かれやすいか
- 柑橘の果皮のように、香りを蓄える油胞があるか
薬剤師として化学を学んできたことは、ここで役立ちます。
ただし、成分表だけで答えが決まるわけではありません。
素材の状態を見て、小さく試し、得られた香りを確かめる。
知識と観察の両方が必要です。
3つの抽出方法を比べると
| 抽出方法 | 仕組み | 向いている素材・香り | 選ぶときに見ること |
|---|---|---|---|
| 水蒸気蒸留 | 香りの成分を蒸気とともに運び、冷やして水と油に分ける | 蒸気とともに移り、油として分かれやすい香り | 熱の影響、揮発しやすさ、水への溶けやすさ |
| 圧搾 | 柑橘の果皮にある油胞を機械的に壊し、オイルを取り出す | 油胞を持つ柑橘の果皮 | 果皮の構造、加熱を避けたいか |
| 溶剤抽出 | 香りの成分を溶剤へ移して取り出す | 熱で輪郭が変わりやすい花などの香り | 熱への弱さ、蒸留で取り出しにくい成分があるか |
ここからは、一つずつ見ていきます。
水蒸気蒸留|蒸気とともに香りを運ぶ
水蒸気蒸留では、植物へ水蒸気を通します。
蒸気とともに移った芳香成分を冷やすと、再び液体になります。
その液体から、水の層と精油の層を分ける方法です。
多くの植物に使われる方法ですが、何でも同じように取れるわけではありません。
加熱で変わりやすい成分もあれば、水の層へ移りやすい成分もあります。
その場合、植物にあった香りが、すべて精油の側へ入るとは限りません。
柑橘の果皮も、蒸留する場合と、次の圧搾を選ぶ場合があります。
同じ素材でも、残したい香りによって方法が変わる一例です。
圧搾|柑橘の果皮にある油胞を生かす
柑橘の皮を光に透かすと、表面に小さな点が見えます。
そこには、香りのオイルを蓄えた油胞があります🍊
圧搾は、その油胞を機械的に壊し、オイルを取り出す方法です。
蒸気で運ぶのではなく、果皮の構造をそのまま利用します。
加熱しないことも、水蒸気蒸留との大きな違いです。
ただし、花や葉に、柑橘の果皮と同じ油胞があるわけではありません。
圧搾は、どの植物にも使える方法ではなく、柑橘だから選べる方法なのです。
溶剤抽出|熱で変わりやすい香りを取り出す
花の香りには、加熱によって輪郭が変わりやすいものがあります。
また、蒸留しても精油の層として分かれにくいことがあります。
そのような香りを考えるとき、選択肢になるのが溶剤抽出です。
芳香成分を溶剤へ移して取り出し、アブソリュートという芳香素材にします。
香彩では、月桃の花の香りを考えたとき、蒸留との違いを比べたうえで溶剤抽出を選びました。
月桃の花を収穫し、この方法を選んだ理由は、6月8日の製造記録に残しています。
ここで大切なのは、溶剤抽出のほうが優れている、ということではありません。
繊細な花の香りを、どの形なら取り出せるか。
その問いに対する、一つの選択肢です。
香彩が植物ごとに抽出法を選ぶ順番
香彩では、最初に植物の部位と構造を見ます。
柑橘の果皮に油胞があるのか。
花や葉の、どこに香りがあるのか。
次に、取り出したい香りの成分について調べます。
熱の影響を受けやすいか。
蒸気とともに移りやすいか。
水の側と油の側の、どちらへ移りやすいか。
そこから候補となる抽出法を選び、小さく試します。
最後に確かめるのは、実際に得られた香りです。
想定していた輪郭と違えば、別の方法も検討します。
化学の知識は、候補を絞るための手がかりになります。
でも、知識だけで香りの答えを決めることはできません。
構造を見て、性質を考え、試した結果を確かめる。
この順番で判断するため、選ぶ方法は植物ごとに変わります。
精油を選ぶとき、抽出方法も見てみる
精油や芳香素材を見るとき、植物名とともに抽出方法を確かめると、違いが見えやすくなります。
「水蒸気蒸留」「圧搾」「アブソリュート」という表示は、製造工程だけの情報ではありません。
その植物の、どの香りを取り出そうとしたのか。
作り手の判断を知る手がかりにもなります。
同じ植物の香りを比べるときも、抽出方法が違えば、同じものとして比べられません。
方法の違いを知ることは、自分の感覚で香りを選ぶための、もう一つの見方になると思います🌿
溶剤抽出の実践記録は、近くnoteで公開予定です。
<香彩代表・カモガワ>
薬剤師として奄美大島に暮らしながら、島の植物の香りを“えがおのくすり”として届けています。
青い海と風の中で出会った植物たちの香りを通して、奄美の優しさと彩りを全国へ。





コメント